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静岡の大地(3) 大井川の伏流水 2021年6月28日


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吉田町での夕食

 前回の大井川探訪で、蓬萊橋を見た後、夕食に吉田町の名物である鰻を味わった。今回はそのことから始めたい。蓬萊橋を体験した後、吉田町の鰻屋、「八木秀」に入って梅コースに肝焼きを付けて夕食とした。人気店でたくさんのお客さんがいた。

 静岡県榛原郡吉田町は、人口29,702人(平成28年3月31日現在)の町である。静岡市と浜松市のほぼ中間にあり、東名高速道路吉田ICを控え、大井川の西岸(右岸)に位置しており、南は駿河湾に面した面積2,073haの平坦な地形の町である。しらす漁が盛んな吉田漁港を有し、農地ではレタス栽培が盛んで、漁業と農業を主産業とする町であったが、1969年に東名高速道路吉田ICが開設されてから、工場の立地が進み、産業構造も変化した。

 養鰻池が吉田町の数か所にある。吉田町の養鰻池は大井川の伏流水の恵みで成り立っている。昔は400ほどの養鰻池があったという。吉田町では地表から2メートルほど掘ると大井川の伏流水が出る。大井川の扇状地を流れる地下水量は、一説に1日当り50万立方メートルから80万立方メートルに及ぶと推定されている。その大井川の伏流水が、毎日1時間ないし2時間、養鰻池に投入される。水温37度以上で鰻は死んでしまうので、池の水温を下げる目的もある。水温が高くなると伏流水で冷やし、低くなるとボイラーで温度を上げる。

 吉田町の場合、基本的に稚魚のシラスウナギを静岡の河川の河口付近から採取する。最初に仕入れた稚魚を1000倍の重さに育て、250グラムほどの成魚として出荷するという。その多くは東京に送られる。一つの池には1万匹以上の鰻がいる。
 吉田地域の養鰻業は戦前に始まり、1960年代に最盛期を迎えた。当時、国内生産の7割を静岡県、その半分を吉田町が占めていた。現在の鰻の主要生産地は他県に移った。

 静岡市内で「共水うなぎ」を食べたことがある。静岡県焼津市大井川地区の株式会社共水が、鰻本来の美味しさを第一として、品質研究し、養殖した鰻である。南アルプスからの伏流水で育てられた「共水うなぎ」は、天然鰻のような甘い香りと味わいをもち、DHAやEPAを一般の養殖鰻の4~5倍含んでいると、ウェブサイトの説明にある。通常の養殖は鰻の稚魚から成魚になるまでの期間が半年~10か月といわれるが、「共水うなぎ」の場合は、養殖池の水温の調節で擬似的に四季を造りだし、1年半から2年の間に四季を5巡ほど繰り返して成魚へと育てるという。餌はスケソウダラの魚粉、飼育に欠かせない餌に国内最高級のホワイトミールを使用するという。徹底した水質管理や魚体管理によって薬品に頼らない飼育に心がける。

五十年鰻の貌を見て来しと  後藤比奈夫

 以下、大井川の伏流水について、『あなたの静岡新聞』の記事を参照してまとめておきたい。島田市から下流で、大井川の地下には粘土層の影響で帯水層が広がっている。それが巨大な水がめとなって生活や産業を支えてきた。それにより、大井川の両岸には、食品、化学、製薬など、多量の地下水を必要とする工場が進出した。また、焼津市から吉田町にかけての海岸付近には多くの自噴井が点在し、現在も防災、生活用水などに幅広く利用される。
 過剰な地下水のくみ上げにより、地盤沈下や塩水化などの障害を招くことから、静岡県は条例で、一定規模の揚水設備を使う事業者に対し、届け出と採取量の報告を義務付けた。大井川流域では扇状地全域を規制地域として新設には慎重に対応する。
 大井川地域地下水利用対策協議会(事務局は島田市)があり、民間企業など約400の届け出者が汲み上げる地下水は、2018年実績で1日あたり37万トン弱に及ぶという。
 この採取量約37万トンを用途別に分けると、生活用水と工業用水がそれぞれ約39パーセント、養魚用が約17パーセントである。上水道としての利用は、吉田町が100パーセント、焼津市は88パーセントとなっている。

餌撒けば鰻の島の盛り上がる  和夫
土佐つ子や鰻摑むにかぼちやの葉
川に礼し鰻に礼し夕餉とす

 さらに、大井川の伏流水の取材を続けているが、何と言っても清酒の蔵元の存在が重要である。
 静岡県の清酒造りを支えるのが静岡県オリジナルの酵母「静岡酵母」である。無名であった静岡の酒が全国的に注目されるようになったのは、この静岡酵母の開発が大きな役割を果たした。また、静岡オリジナルの酒造好適米である「誉富士」も大きく貢献している。「誉富士」は、山田錦を改良して作られた、静岡県オリジナルの品種である。誉富士を使ったお酒は酒蔵の個性を出しやすいと言われ、静岡酵母との相性も良好であるという。
 また、酒造りには杜氏が大きな役割を演じている。「しずおか地酒研究会」主宰の鈴木真弓氏によると、「静岡県の酒造業は、杜氏の出身地が幅広く、杜氏の世界では『静岡で杜氏ができれば一人前』といわれ、それだけハイレベルな吟醸酒造りが確立された」という。
 杜氏は製造業の中でも特殊な職種で、米を収穫し終わった農閑期に酒蔵へ出稼ぎに行き、酒が搾り終わる春まで勤め、故郷へ戻って田んぼや畑作業に従事するという営みを繰り返す人たちである。
 2008年の北海道洞爺湖サミットでの晩餐会の乾杯用の酒に、静岡県の清酒が使われ、静岡地酒が一躍、脚光をあびることとなったが、その酒を育てる杜氏たちの存在が大きい。
 静岡県は、名水の宝庫で、富士川、安倍川、大井川、天竜川といった一級河川が流れ、富士山からの雪解け水も地層の中で沪過されて湧き出て来る。豊かな水源に恵まれた静岡県には古くから多くの酒蔵があり、大井川流域の志太地区にも、酒蔵が数多く点在し、「志太杜氏」という酒造り職人集団が活躍した。
 昭和30年当時、静岡県内に75社もあった酒蔵も、時代の変遷により、多くの蔵が廃業し、現在では31社に減った。

 蔵と杜氏の「技能」、そして技術支援をする研究指導機関(現静岡県工業技術研究所)の「技術」が融合し、洗練された味と香りが特徴の「静岡型吟醸酒」が生まれ、1986年の全国新酒鑑評会では、静岡県から出品された21点のうち、金賞10、銀賞7、入賞率80.9%(全国一)を記録した。静岡県の杜氏の出身地は、南部、能登、越後と多岐にわたり、杜氏の世界で、「静岡で杜氏ができれば一人前」といわれる吟醸酒造りが確立されたのである。

 静岡県には名水に関連して酒蔵が多数ある。静岡県の吟醸造りの成果が注目されている。そのことをさらに次号では、追いかけてみたい。

 今回の文章をまとめるために、静岡県立大学事務局の大石敏昭氏および赤池勇治氏に助言いただきました。記して深く感謝いたします。

尾池 和夫


下記は、大学外のサイトです。

吉田の「よしまち公舎」の中にある、鰻のことを紹介するサイトです。
https://yoshida-machizukuri.jp/beppin/unagi-top.html

あなたの静岡新聞
産業、地場の味 良質な地下水 発展の源【大井川とリニア 序章 命の水譲れない?】
https://www.at-s.com/news/article/special/linear/805397.html

静岡新聞「まんが静岡のDNA」の記事でも静岡の大地を紹介しました。
https://www.at-s.com/news/article/featured/culture_life/kenritsudai_column/700397.html?lbl=849https:/

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